これはこれで意欲作

太宰治リメイク特集第二弾!

人間失格 壊 (チャンピオンREDコミックス)

人間失格 壊 (チャンピオンREDコミックス)

人間失格壊、二ノ瀬 泰徳が人間失格を原作に書いた漫画です。この人はどうやら触手とエロと拷問が有名な人らしいとのことを聞いていたので、特に期待はしていなかったのです。ほんとに。でも、悪くなかったですよ。

この壊という題名。文字通り人間失格を現代風にリメイクしてぶっ壊すってコンセプトなんだと思います。これって原作を踏襲しつつ漫画にした古屋版と逆にいくもの。実にその差は大きく、こちらは設定からなにから違う。鎌倉心中もしないし、竹市は女だし、あげくバーのママの出番がない。ここまでやると原作ファン憤慨みたいに捉えられるかもしれませんが私はそこまでと言った印象。以下ネタバレありでガンガン行きます。

本当にこの作品は人間失格を壊せたのか。といったら、それは言い過ぎというのが実情でしょう。確かに触手とかショタとかはありましたがビジュアルの話で内包されているものは変わらない。そのビジュアルの面でも画力が足りなく同人誌のような印象をもったり、とりあえず触手っていうワンパターンになっているため絶賛はできないのです。ただ、話をよく創り込んでいったという点は多いに評価します。人間失格の設定を活かしつつ上手くリメイクしている。

なかでもヨシ子の存在。原作ではタバコ屋の売り子でしたが、今作では同級生の女の子。そもそも、このヨシ子って娘は原作でも「信頼の天才」といわれるぐらい無垢で純粋です。しかし、ある時強姦されてしまい夫であった葉蔵から信用を失ってしまうという人物です。それが、父親に売春を強要されて好意をいだいている葉蔵と一緒になれば救われることが出来ると信じている女の子になっている。それも幼い頃の約束を頼りに葉蔵にアプローチをするという健気さ。よく「信頼の天才」と「強姦」というところから、ここまで膨らませてきたなと思います。見た目も性格も明らかに違うのにこの娘はヨシ子だっ!って思えるのは作者の読み込みが深いからだと思います。作者なりに人間失格を飲み込んで消化してやろうというのが手にとって感じられるくらい勢いがあります。恐らく前述のビジュアル面でも一皮剥けていればもっと凄いものを見れたかなと思ってます。ただギャグセンスだけは受け付けないかも。

この作品結末は道化となってまで生きてきた人間を葉蔵自身が辞めてしまうというもの。自身の内なるものを受け止めるとかではなく折衷を諦め死で決着つけるとういこと。結局失敗に終わっていますが記憶をなくすという形になっている以上、本望は遂げているのでしょう。これってのは賛否があるのではないでしょうか。人間失格ってのは年齢的にはありえない程白髪になった葉蔵でも「神様みたいにいいこだったよ」といわれることで、そんな存在でも生きていたことが良いことになるという救いがある話なんですよね。その葉蔵はひどい姿になっていても生きている。一方、この葉蔵はもはやもういない。せっかく、「あいつっていいやつだったね」って言われても対象がなくなってしまってはそれは昔話や思い話です。あの葉蔵の状態を知りつつも「神様みたいにいいこだったよ」と言ってくれるバーのママがいるからこそ救いになるのだと思います。
この台詞も漫画ではシゲ子の言葉として出てくることは出てくるのです。このシゲ子ってのは、一時身を寄せていたシズ子の年端もいかない娘です。人生を歩んできたママと真逆の存在。なによりシゲ子はいい葉蔵しかしりませんがママは汚いところも見てきている。自ずとその言葉の重みは変わっています。全体的な構成で違和感があったのはここぐらいでしょうか。

なにはともあれ、人間失格を取り込み新しいものにしようとしたという意欲作です。絵の好みギャグセンスで人を選ぶかもしれませんがいうほど悪く無いですよ。