スパイシーな香りただよう

パプリカ (新潮文庫)

パプリカ (新潮文庫)

流石筒井先生!我々には出来ないことを平然とやってのける。

今敏監督が映画もしたこの作品。あらすじだけ書くと、夢に入る装置が開発された世界、そこには人々の精神病を夢を通じて治す夢探偵パプリカがいた。なんて正に夢のある話。しかし、そこは筒井康隆。一筋縄ではいかない。そうそうに繰り広げられる人間ドラマ。登場人物たち全て生々しいほどの人間で、欲、自制心、羨望、殺意などさまざまな感情が入り乱れる。
土台もしっかりしていて、フロイトユングと押さえておかないと行けない部分は押さえてある。
そしてなにより、風呂敷のたたみ方。いきなり「え?そんなのあり?」と声に出してしまうぐらいナンセンス(褒め言葉)な展開から、全てを投げうって華麗にバトル物への展開。打ち倒される悪役。素晴らしいカタルシス。すごい面白いです。この時代のSFは読んでいてわくわくするからいいよね。先が気になってしかたないって思わせる力がある。

さて、少し真面目な話をば。筒井康隆は先のとおり結末を投げうっているので作品のメッセージのアンサーが明確でないということ。行き過ぎた科学がもたらす恩恵と弊害。この作品は科学推進派と自然主義派の戦いとて読み替えられる。これはどちらの言い分も正しく、暴走した科学は取り返しの付かないことをもたらす。善意であっても、悪意であっても。
理事長の乾一団は結局、科学を押し留めることを科学でもってなそうとして結果、科学に取り込まれてしまった。これは最大の皮肉だと思っている。やはり、なにより大切なのは科学をハンドルできる人物または組織がいるということ。あくまで科学は人に管理されるものなのでないといけないというのが結局の所メッセージなのではないか。